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東洋はりの診察方法1

東洋はりにおける診察と現代医学の診察とはどう違うの?

皆さんこんにちは。先回までは、経絡治療の基礎となる考え方や経絡の特徴、5臓の仕組みや働き、病気になる病因とその症状などについてお話してきました。今回からはその考え方を踏まえて診察する方法についてお話しさせていただきます。さあ、22枚目の扉を開けてみてください。

皆さんが、具合が悪くて病院へ行くと、先生からいろいろな質問を受けたのち、聴診器を当てられたり血圧を測定されたり、血液検査や尿・便検査などをされますね。

それでも判断がつかないときは、いろいろな器具をもちいて画像による診察が行われます。それらの状態や数値を照らし合わせて、正常な範囲か、それとも異常な状態かで病名がつけられます。おおむね検査結果に異常があったものを病気として治療対象とされます。

具合が悪くても検査上で異常が認められなければ病気とは診断されません。

それにたいして、東洋医学・経絡治療においては、12経絡の虚実を明らかにしてその中心になる経を主証(治療目標)として決定します。

病人があらわす種々雑多な症状は、臓腑経絡説によって弁別され、12経絡の変動として把握された後、どこの経絡が病気や症状の原因になって引き起こして、そのおお元になっているかということを決定します。

これが「証(あかし)」ということになり、それが直ちに、治療目標となります。これを東洋はりでは、診断即治療目標ということで、「随証療法」と呼ばれています。

具体例でみる病気の判断の違い

例えば、腰痛の患者さんがおられたとしますと、病因では、「何番目の腰椎の椎間板がヘルニアを起こしていますから、腰椎椎間板ヘルニアですね」という診断名が下ります。

しかし、東洋はりでは、腰椎の何番目に椎間板の異常があったとしてもそれが直ちに病気の原因ともみませんし、治療目標にもつながってきません。

つまり、腰椎の椎間板ヘルニアがあってそのことで腰痛が起こっているということは腰痛を起こしてしまっている条件の一つとしては考えていますが、動かしたときに痛いのか、じっとしていても痛いのか、どのあたりが痛いのかなど腰に関係する経絡の変動として捉えます。

それから他の症状も合わせてどの経絡に関係するものかということを考え、さらにその経絡変動はどの臓によって引き起こされているのかを求め、治療目標になるものを選ぶことが「証」を立てるということになります。

ですから、鍼は病名治療でも特定の症候群にたいする治療でもないということになります。腰椎椎間板ヘルニアが病気を引き起こしているのではなく、体を正常に保つ経絡が乱れていることによって腰痛が起こってくると考えているのです。これは、「内傷なければ外邪入らず」という東洋医学独特の病理感に基づくものです。

東洋医学の4つの診断法

1.望診(ぼうしん)
望診は、目で見る診察法で現代医学では、視診法に当てはまります。

青・赤・黄色・白・黒の5色を基本として顔や尺部の色の変化を、5臓や経絡に当てはめて考えます。

前腕内側を尺部といいますが、ここは死色、全身中、最も自然な色を表すところということで用いられます。

5色は、青は痛み、赤は熱、黄色は栄養障害、白は冷え、黒は慢性症状を表すと考えています。

この5色は生色と死色とがあり、生色が表れていれば病が重くても予後は良好ですが、死色が表れていると軽傷に見えても予後は不良となります。

5色の生色、死色の表
生色・・・翡翠(水鳥)のごとくつややか。 死色・・・草の絞汁のごとく光沢なし。
生色・・・鶏冠のごとくつややか。 死色・・・古血のごとく光沢なし。
黄色 生色・・・蟹の腹のごとくつややか。 死色・・・からたちの実のごとく光沢なし。
生色・・・豚脂(豚の脂肪肉)のごとくつややか。 死色・・・枯れ骨のごとく光沢なし。
生色・・・烏の濡れ羽のごとくつややか。 死色・・・煤(すす)のごとく光沢なし。
2.聞診(ぶんしん)
聞診とは、聴覚によって聞き分け、嗅覚によって匂臭をかぎ分ける診察法です。

これには広い意味で打診・聴診なども含まれます。

東洋医学では角(かく)・徴(ち)・宮(きゅう)・商(しょう)・羽(う)の五つの五音(ごいん)と発せられる声の感じをあらわす、呼(こく/よぶ)・言(げん/いうこと)・歌(か/うたう)・哭(こく/なく)・呻(しん/うめく)の五声(ごせい)があります。

五音五声の表
五臓五行五音発声法長短・高下・清濁音階五声
肝木 角音 舌音、タ行 中位
心火 徴音 歯音、サ行 短く・高く・清い
脾土 宮音 喉音、ア行 ごく長く・低く・濁る
肺金 商音 顎音、カ行 長く・低く・濁る
腎水 羽音 唇音、マ行 ごく短く・高く・清い(1音階低い)

このように五行が配当されていますが、この五音五声の調和がとれていれば良好、相剋するときは不良となります。

次に匂臭に関する診察法ですが、これは、「膏くさい・焦げくさい・芳しい・生くさい・腐れくさい」の五香を中心とした診察法です。しかし、この五音、五声、五香はいずれも熟達した診察法となりますので、臨床に結び付けるのは大変難しいです。

今回はこのへんで終わりとします。次回は4診法の残りの問診と切診についてお話しする予定です。