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うつ病の症例

鍼灸治療とうつ病

うつ病の症例をご紹介いたします。文字背景にピンク色がある用語は、本文末尾に簡単な用語説明を記載いたしておりますので必要に応じてご覧ください。


1例:患者 女性 55歳 主婦

来院時の状態:
頭痛30年来、家庭のいざこざで、心のバランスを崩してから、うつ病となり、抗うつ剤を服用して手放すことが出来ない。
常に頭がもやもやして足も熱る感じ。所見では後首から肩にかけて凝りが多く、触っても後頭が熱い感じでした。 皮膚は長年薬を飲んでいるせいか、湿り気とざらつきがありました。
治療方針(証)
初診の証は全身に気を行き渡らせる目的と気持ちを安定する目的の治療方針(肺虚肝実証)で、手首外側のつぼと足の親指にあるつぼに補法。左の足の親指と人差し指の間にあるつぼに瀉法。左の第2、第三頸椎側のこりを緩めるようにはりを行い、足裏にあるつぼに温かみを感じたら取り去る灸を行ないました。

薬を長く飲んでいられる患者さんの脈は硬くてそれをやわらかくすることは難しいものですが、この脈は体の全体像を投影したものですから、気と血の流れが良くなってくれば、ある程度正常な状態になるものと思って治療を行ないました。

途中、「証」を元気が取り戻せるような目的と消化器の働きをよくする目的(腎/脾相剋調整)、気持ちを安定させる目的(腎虚脾実証)の治療方針などで治療を行ないました。

頭のもやもや感や寝つきが悪いという症状はある程度治まって来ましたが、経済的な事情もあって、20回で治療を中止することになりました。

うつ病は、長期の治療を必要とする場合が多く、できれば完治まで、手助けをさせていただきたかったのですが、途中で中止となったことは、残念です。


2例:患者 女性 66歳 主婦

来院時の状態:
精神的疲労この患者さんは他の鍼灸院でも治療をしていましたが、自宅から通うのに当院が都合が良いと言うことで来院されました。  

初めは電話で、なんども問合せがあったり、2、3回治療をした後でも電話で治るかどうかということばかり気にかかっているような状態でした。医者では仮面陽うつ病と診断されていました。皮膚はつやが無く、痩せていてろっ骨が浮き出しているような感じでした。

治療方針(証):
証は元気を取り戻させるという目的と気持ちを安定させる目的の治療方針(腎/脾相剋調整)で、右足の内くるぶしのやや上側のつぼ、右肘関節のところにあるつぼに補法。左膝関節内側やや下のつぼに補法。腹部のよわいところに補法。腹部のよわいところに補法。頚から背中にかけて、皮膚や筋肉が突っ張っていたり、大きな凝りなどに散鍼を行い、背中の肩甲骨下側にあるつぼに、温かみを感じたら取り去る灸を行ないました。

患者さんは、ご自分で運転されてこられるのですが、付き添いがないと心配な状態でしたので、必ず旦那さんか子供さんが付き添ってこられました。不定期ながらも治療を続けていくと症状が安定してきました。


3例:患者 男性 46歳 会社員

来院時の状態:
肩こり、頭痛、いらいら、眠れないなど不定愁訴。初めは問診でもはっきりとした答えが帰ってこない状態で口ごもる感じの話し方でした。
腹部の水落から左側にかけて張っていて、こりがありました。ストレスが多く溜まっている人にこのような所見はしばしば見受けられます。食欲も無く、腹が減ってこないということでした。
治療方針(証):
証は全身に気を行き渡らせる目的とストレスによる緊張の緩和を目的とする治療方針(肺虚肝実証)で、手首の外側のつぼ、足の親指にあるつぼに補法。右足の親指と人差し指の間にあるつぼに瀉法。
腹部のこりに対して、それをゆるめるようにはりを行いました。寝つきが悪い人で後頭部の筋緊張を緩めました。背中には、皮膚や筋肉が突っ張っていたり、大きな凝りに散鍼を行ないました。

仕事の都合で1週間に1回の治療でしたが、5、6回目から元気になり、10回目ころには鼻歌が出るくらいに回復しました。

会社でも自分の症状を話して理解してもらい、仕事の内容を負担のないものに変えてもらえたのも回復に繋がったものと思います。

このように見ますと、痛みの治療とは違い、本人が自覚しにくい治療効果ではありますが、ある程度良くなっていくと治療が中断しても再発が少なく、仮にまた不安定になっても、その都度はりをすると心療内科のお世話にならなくても症状は治まっていくようです。

患者さんご自身として大切なことは、神経的な疾患は必ず治るのだと思って治療を受けることと、どうして自分だけこんな病気になったのだろうなどと気に悩まないことが解決の最も近い対処方法だと思います。


4例:患者 女性 53歳 主婦

来院時の状態:
不安感がもっとも強く、既往歴として、乳がん摘出と子宮筋腫摘出がありました。そのほかの症状として、非情に敏感体質で肌荒れ冷たい。動悸、息切れ、冷性、頭重、不眠などがありました。
2ヶ月前に乳がんの手術を受け、抗がん剤を服用中でした。腹部は力が弱く下腹部に弾力性がない。脈は沈んでいて、速く弱い。
治療方針(証):
腎・脾相剋調整という証を立て、右復溜・尺宅・左陰陵泉に補方を行い、胃に関係する経絡を調整しました。頸背中にはりをした後、背中足裏に温灸をおこないました。
治療後その当日は眠れるようになり、5回目頃より食欲も出できました。眠りの方は、なかなか好転しませんでしたが、抗うつ剤を減らすようになって行きました。

証は腎・脾相剋から肺・肝相剋に換えて計15回治療をして、終了いたしました。

紹介者の話では、その後大変元気になり、コーラス活動など積極的されているとのことでした。


5例:患者 男性 42歳 会社員

来院時の状態:
3年前からうつ病と診断されており、やる気が出ない状態。薬を飲んでいたら、なお更やる気が起きないので今は止めている。そのほかの症状としては、汗をかきやすい。
皮膚はこそうぎみ。うつ状態で、やる気が無い、疲れやすい、めまい、鼻づまり、のぼせ、動悸、寝つけない、耳鳴、頻尿、頭重などがありました。
腹部はざらつき下腹部が弱い。脈は沈んでいて遅く弱い。
治療方針(証):
腎・脾相剋という証を立て、右復溜・左陰陵泉に補方。胃に関係する経絡を調整し、肩こりがひどいとのことでしたので、その部を中心にはりの後、照海・れっけつにきけい灸を行いました。
この患者さんはとても敏感ではりを近づけるだけでも感じるなどありましたので、てい鍼を用いました。

治療後はぐっすり眠れたとのことでしたが、逆に腰痛が出てきたり、腕が重くなったとのことでしたので、証を脾虚肝実証に換え、3回目からきけい灸を内関・皇孫に変えて行いました。

6回目頃よりやる気が出てくるようになり、朝起きられるようになってきました。証は脾虚証であったり、肺虚証であったりしましたが、眼に関係する症状が多く出るようになりました。

途中インフルエンザのため治療の間が開くこともありましたが、仕事も休むことなくできるところまで改善されました。6ヶ月21回で治療を終了といたしました。


6例:患者 女性 65歳 主婦

来院時の状態:
鬱状態で眠れない、食欲不振、動悸がもっとも強く、10種類も薬を服用していました。その他の症状としては、皮膚はつやあり。
足の冷え。食欲不振、朝起きられない、動悸、眠れない、めまい、胃がつかえる、胸焼け、鼻がつまる、痰が切れにくい、口が渇く、口が苦い、頻尿、頚肩凝りなどがありました。
腹部はつやがなくへその周りが硬い。脈は沈んでいて速く弱い。
治療方針(証):
腎・脾相剋調整という証を立て右復溜・左大陵に補方。膀胱と三焦(好転の元気を高める目的)に関係する経絡を調整しました。この患者さんも敏感で体力もなく弱っていましたので、てい鍼や円鍼を用いて施術いたしました。
背中と足裏に温灸をおこない治療を終了といたしました。3回目の治療で下痢と右顎の痛みがありましたので、証を脾居肝実証に換えて治療を行いました。

その後は腎虚証であったり脾居証であったり、適応側(先に鍼をする側)などを換えてみました。

症状も食欲がない、眠れない、朝起きたくない、やる気が出ない、考えがまとまらない、下痢、口が苦いなどほとんど好転することがありませんでした。

通院している心療内科でもそのつど薬を換えたりされるので、その副作用もかなり出ていました。

患者さんは気持ちでは薬を止めたいという希望はあるものの、薬を止めてかえって具合が悪くなったらどうしようという考えが先に立ち、その狭間でかなり気持ちが揺れ動いていて、そのことに対する不安感といらだたしさが内交ぜになっているようでした。

はりに対しても治療をして良くなっていくという信頼が出来ないようで、常に不安を口にされていました。

結局6ヶ月24回で、送ってくれる人の都合が悪くなったこともあって、治療中断となりました。

この症例は全くはりが効かなかったのではなく、ある主の薬物依存状態に陥っている患者さんにたいし、薬と鍼との併用をうまくさせられなかったことが、患者さんを楽に出来なかったことと、自分の病気に対してはりは効果があるのだという感じを与えられなかったので、途中で治療を諦めてしまったものと思います。

薬を飲むとか、はり治療を受けにくるということは、患者さんにとってはとても大切なことですが、それだけでは病気は治ってこないということを、皆さんにもご理解いただきたくご紹介いたしました。


用語説明:

証(あかし)
東洋鍼灸治療では、治療を進めるにあたり、証(あかし)を決定します。証とは、体のどのつぼに鍼やお灸をするのかを決定する、治療方針のことです。
散鍼(ちらしん)
散鍼とは、皮膚や筋肉が突っ張っていたり、大きなこりがあるところにつぼに関わり無くはりをする方法です。
きけい灸
きけい治療(灸)とは、経絡治療の中の一つの治療方法で手と足からそれぞれ一つずつ、つぼを選んで組み合わせ、鍼の材質や灸の数に差をつけることによって、プラスとマイナスの働きを利用した治療法。
てい鍼と円鍼
鍼が苦手というお客様やお子さんの治療などで使う鍼先の丸いはりで刺さないタイプの鍼

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