東洋はりの診察方法4-脉診のお話その6
脉状に応ずる手法について
今回からは脉状をどのようにしてはりの治療に役立てているのかということをお話しさせていただきます。
脉診自体が、われわれが拝見して、感じられたものですので、治療を受けられた患者さんには直接わからず、「鍼灸の豆知識」とはなりませんが、脉診流とうっている「経絡治療」ですので、簡単にお話しさせていただきます。
さあ、30枚目の扉を開けてみてください。
証が決定されて、まず虚している経絡、経穴に鍼をします。すると、その邪気は陽分に浮いて触ることができます。その邪を手さばきによって処理します。
その邪の強さや大きさによって4種類に分けることができます。
- 実邪は左手で下に圧を加えることによって処理します。
- その実邪をさらに気によるものと血によるものとに分けます。
- 気は、陽にして浅く積極的に流れていますので、細いはりで浅く刺し、軽く下圧をかけます。
- 脉状は浮みゃくが最も多くそのほかに、こう・だい・こう・なん・かんなどの脉状があります。
血は陰にして深く沈んで消極的で変化しにくいもので、はりはひと回り太いものを使ってやや深めにさし、下圧も強く掛けます。脉状は弦脉が最も多く、その他にかつ・きん・ちょう・ろうなどの脉状があります。
虚性の邪は、生気の不足により本来は実邪にならなければいけないのが、つやとうるおいを失い虚性の邪となっているもので、手法は「補中の瀉法」というはりの操作をします。
気による脉状は、水に浮かべた枯葉にでも触れるような感じ(こ)と埃にでも触れるような(塵)というもので、とても弱くて強く脉を押してしまうと消えてしまうものです。 はりは細いはりで浅くさし、邪をぬきます。
血による脉状は、水に浮かべた小枝にでも触れるような感じ(けん)というもので、やや太めのはりを深くさしぬきます。「補中の瀉法」という操作では、邪が弱い時に使うので、下圧はかけません。
治療上はこの「補中の瀉法」が最も多く用いられています。そのほかに、弾脉というものがあり、これは高血圧症や動脈硬化、代謝障害などの古疾に表れる脉状でその脉状は指先に迫撃するような感じを与えるものであります。
このように、脉状によって、はりの操作や種類を決めることが出来るのです。その意味からも脉状診はとても大切な脉診法といえます。
脉診のこつ
よく、初心者で脉診を始めたときは、「脉が早くわかるようになりたいと思って、先輩の先生に脉診が上手になる方法がありますか」と質問することがありますが、どんな上手な先生でも、たくさん患者さんを診ていられる先生でも「こつ」などという特殊なものはないと言われます。
しかし、「ない」といわれるとますます知りたくなるのが、人間ですね。
私も毎日患者さんの脉を診ていて、「いつになったら簡単に脉がわかるようになるのだろう?」と「棚からぼた餅」を願っています・・・。残念ながらまだそのぼた餅は落ちてきません。しかし、脉診でもやはり基本の形はあって、「すん・かん・しゃく」3部に分けて観察しますが、「すん」は陽であるから、浅く(軽く)、「しゃく」は陰であるから深く(重く)押すことが大切です。
真ん中の「かん」には、橈骨茎状突起という骨のでっぱりがありますが、そこに術者の中指がまっすぐ当たるようにして脈に正確に3本の指を当てることが大切であると思います。 患者さんの手首を出来るだけまっすぐにして左手と右手の状態を同じようにしてから、脉診すると良いと思います。
3本並べた指に平らに脉の強さが触れる脉の位置を「中脉」といって、5臓6腑にくまなく胃の気がめぐっている状態を表しています。
この中脈を確実に捉えることが脉診の最も大切な基本中の基本であります。
この際、脉の流れをけっして妨害しないようにきわめて自然に流すという心構えが大切となります。中脈を捉えたならば、その下側で厚みと力があって大きく振れるものを陰の実とし、力なくかすかなものを虚とします。 また、中脈の上側で、厚みと力があり大きく振れるものを陽の実とし、力と厚みなくかすかなものを虚とします。
陽脉の邪の見方には、こつがあり、陽分に充てた指を脉の振れないところまで静かに浮かせ、その部で指をわずか上下にゆするようにすると邪のあるばあいは指の腹についてきます。
中脈が平らな場合は問題はないのですが、患者さんの体質、病歴、病症などにより、ときに非常に細かったり太かったり、異常に力があったりしてわれわれをとても悩ませています。陰脉を診たつもりでも中脈を診ていたり、陽脉を診ているつもりでも中脈を診ているということがあり、証決定を誤らせる原因になっています。
このように脉診は極めてかすかな差を微妙に捉えるものでありますから、初めから先入観に捕らわれると証決定を間違うことになります。
しかし、脉診は単純に浮かせたり沈めたりしているだけでは、正確に脉を捉えることは出来ません。その患者さんの病歴や病床から、この脈には、外邪があるのではないだろうか?、中脈が太くなっているのではないだろうか?などとたくましい診脉力をたぎらせて沈めた指先を橈骨の方へ、引き寄せたり内側に押してみたり、脾譜面に浮かせてきた指先を上下にゆすったり後ろ側に回してみたりして丹念に探し求めるというテクニックが必要となります。
脉診の「こつ」は指先の特殊訓練ということになり、数を多くこなすことしかないのでしょうね。
今回はこの辺でお話を終わりとさせていただきます。