東洋はりの診察方法4-脉診のお話その7
奥の深い脉診
今回も脉診のお話をさせていただきます。さあ、31枚目の扉を開けてみてください。
我々経絡治療では、脉診を3段階の要素に分けて考えています。
一つ目は、「診脉力」と言って、診察のさいに用いる脉診のことです。先回までお話しさせて頂いた、比較脉診と脉状診は、すべてこの「診脉力」ということになります。 「脉診」ということからも、ほとんどの場合にはこの「診脉力」というものがイコール「脉診」ということになります。
二つ目は、「整脉力」と言って、これは鍼をしたときに脉が変わって、差があったものがそろうことをいいます。つまり、鍼の技術力を表したもので、それを「脉診」の中に含めて「整脉力」という言葉で表現しているものです。
三つ目は、「見脉力」と言って、鍼をした後、最初の状態とはりをした後との状態を脉で観察するもので、自分が行った鍼が、患者さんの体に良い影響を与えられたか、悪い影響を与えてしまったかを判断する「脉診」のことです。
脈診においては、どうしても「診脉力」にウエイトが置かれがちですが、行った鍼がどのような影響を与えたかを観察する「見脉力」が最も大切な脉診ということになります。
良い脉戸は、「比較脉診において6分全くそろうと同時診、その陰陽の比較においても強弱の差がなくて邪がない和緩を得た春の海のような脉状」としています。
このような脉状を導けるよう鋭い見脉力を身に着けるのがわれわれ治療家の課題ということになります。
はんかんのみゃくについて(手のない人やけがをしている人の脉はどう見るの?)
患者さんのなかには、脉ところに拍動を触れないで、背面の部に脈動を感じるものがあります。これを「はんかんの脉」と呼んでいます。そのほかにこれと似たようなものに、橈骨動脈が脉どころでいくつかに分かれて割れていたり、いろいろな畸形もまれにあります。
このような患者さんの脉を見るときには、脉の振れない脉位を虚とみるか、隠れた実とみますが、脉診以外の診察法と睨み合わせて証決定を行い、治療を進めていく間に、正しい脉ところに拍動を触れるようになることもあります。
更に、特例としては、手首が片方なかったり、あるいは、両方なかったりギブス、その他によっておおわれていて、脉診が出来ない人もいますが、望・聞・問・切などによって、証決定を行い、支障なく治療を進めています。
7死の脉について
古典には、死の直前になると、「かゆう・じゃくたく・だんせき・ぎょしょう・ふふつ・おくろう・かいさく」という7つの脉が現れるとされています。しかし、今の日本の現状で「死の直前に、鍼灸院に来院することはなく、われわれがそのような患者さんの脉を脉診する機会は全くありませんね。」
我々の会の初代会長である、福島先生は、その著書の中で、「わたくしが死の直前に触れた脉状は、さながら、すん・かん・しゃくに木綿糸でも張ったかと思われるような胃の気のない、したがって浮も沈もない特殊な脉状に見えました」と書いておられます。
それとは別に心臓に病気をもつ患者さんで7死脉の一つではないかと思われるような不整脈を打ちながら、何年も生きられていた人がいたと書かれています。
したがって、脉状だけで死期を予測するということは、神業に近い名人芸ということになります。7死脉だけではなくて、脉診ということであっても、脉状だけでなく、その他の望・聞・問・切の診察法を全面的に駆使してその予後判定を誤らないようにしないといけないということになります。
以上7回に分けて、「脉診」ということについて、お話しさせていただきましたが、患者さんやこの欄を読まれている皆さんにとっては、あまり参考になる「豆知識」ではなかったと思います。しかし、「なぜ?脉を見るの?」、「脉を見て何がわかるの?」という、些細な疑問の、答えに少しでもなれば幸いです。
次回からは、いよいよ「証」決定の手順についてお話しさせていただく予定です。